2013年8月11日日曜日

“愚か者” 〜その挫折と栄冠〜

直近のエントリーで
『機材の話はしばらくしません!』と宣言しておきながら、
舌の根も乾かぬうちに機材関連のエントリーをします。



しかし、今回に限ってはポコ太は悪くない。


だからポコ太は悪くないのだ…。
          悪くないのだ…。
                  悪くないのだ…。




さて言い訳も済んだところで
楽しい楽しい機材の話に移るとするかねぇ。
ヘッヘッヘッ、奥さん寄っといで…悪いようにはしませんぜ…ヘッヘッヘッ






今回のテーマは
[何故、87年のツアーで
「Fool On The Planet」は演奏されなかったのか]





-----------------------------




果たされない約束の予感


小室哲哉はアルバム「Self Control」レコーディング終了直後のインタビューで
「(ツアーでは)もしかしたらアルバム収録曲10曲、全部やるかもしれません」
と語っていた。


だが実際の『FANKS! BANG THE GONG TOUR』では
アルバム「Self Control」中、「Fool On The Planet」だけが唯一演奏されていない
(「Spanish Blue」はツアー中盤、
  新曲として「Get Wild」が割り込んでくるまでは演奏されていた)




この件について、以前のエントリーでふれた『キーボード・マガジン』1987年4月号
『FANKS! BANG THE GONG TOUR』リハーサルの取材記事に
興味深いことが書かれていた。
(なお本記事は例の『キーボード・マガジン』電子書籍版にも
 めでたく再掲されたので、ぜひご覧いただきたい)



該当部分を引用してみよう。

(このツアーでは)サンプラーだけでも4台あって、Emax、イーミューⅡが各1台。
 S50が2台。「Fool On The Planet」などのボイスが厚く重なる曲では
 このうちの3台が同時に使われる事にもなる。

                      -引用ここまで-





ちなみに、この記事内で唯一出てくる曲名が「Fool On The Planet」

ここまで具体的に書かれているということは、
少なくともこの時点ではツアーでも演奏する予定で、
打ち込みだけではなく、バンドと合わせるところまでやっていたのだろう。





それが何故、本番では脱落してしまったのか?






-----------------------------




青く揺れる惑星に立って


ここで今一度、アルバム「Self Control」収録のオリジナル版を聴いてみよう。






この曲のサウンド面の特徴としては、なんといっても
小室哲哉入魂☆の多重コーラス だ。



冒頭から聴ける、この分厚いコーラスは小室哲哉が1人で24chも重ねたもの。
そう、すべて生声。声をサンプリングして鍵盤で弾いたのではないのだ。
このコーラス録音だけで丸一日かかったという。(喉は大丈夫だったのだろうか?)


結果は御聴きのとおり。
この曲の持つエモーショナルな広がりと力強さに見事に貢献している。




「Time Passed Me By」では当初、アコースティックギターのみという
物悲しいアレンジにされて、思わず文句を言った木根尚登も、
これには大満足だったのではないだろうか。





-----------------------------




理想と現実


しかし、この拘りがアダとなる。
Aメロ以外の全ての箇所にわたって録音されている
この「アー」や「ウー」をステージで再現するには
膨大な量のメモリを積んだサンプラーが必要となる。



先に引用した記事によれば
このツアーで用意されたサンプラーは全部で4台。
これだけあれば出来るような気もするが
同引用部分の最後「3台が同時に使われる事 "にも" なる」という部分に注目してほしい。




つまりこの4台のサンプラーは
同時に使うことが本来の目的ではないのである。




4台あることの意味は、例えば2台を現在演奏中の曲に使っている間に
次の曲で使うサンプルを空いている2台にロードする。
つまり自転車操業をするための複数台なのだ。




自転車操業というと聞こえが悪いが
1985年「Dragon The Festival tour」の時はその自転車操業さえ出来ず、
コンサート中ずっと綱渡りの状況だったことは既に述べた





ちなみに1986年の「FANKS DYNA☆MIX tour」では
サポートキーボードの白田朗ブースに当時の新製品 AKAI『S900』が導入されたものの、
この時期からフレーズサンプル(『Come On Let's Dance!』や『Give you a beat!』など)の使用が大幅に増えた為
小室ブースのサンプラーと合わせてもメモリが到底足りず、
曲によってはAメロで使うサンプルは小室ブース、
サビで使うサンプルは白田朗ブースという風に、
1曲中でも分割してロードされていたらしい。

さらに白田朗は演奏しながら自分でロードしなくてはならず、
2台あっても状況的には大して改善されていなかったようだ。







ここがマニピュレーターブース。画像は武道館公演だがツアーでも同じ位置。






















マニピュレーターブースへ指示を出す小室哲哉



































-----------------------------





先客あり


さてこのサンプラーというと思い出すのが
元祖・サンプラーの塊曲「Your Song」である。


1987年『FANKS! BANG THE GONG TOUR』のウリのひとつが
この「Your Song」初演奏であった。




セットリストを見ても特にツアースタート時点では

・M04 Rainbow Rainbow(打ち込みを使わない生演奏 & サンプラーも未使用)
・M05 Your Song(打ち込み & サンプラーてんこ盛り)
・M06 1974(打ち込みを使わない生演奏)
・M07 パノラマジック(打ち込みを使わない生演奏)
・M08 Time Passed Me By(3人のみのアコースティックコーナー)
・M09 Here, There & Everywhere(3人のみのアコースティックコーナー)

となっており「Your Song」が 特別待遇 となっていることが分かる。





おそらく、この「Your Song」周辺で一度
すべてのサンプラーを同時に使い切ったのではないだろうか。
これは機材的な意味での中休みであるアコースティックコーナーが控えていたから出来た事、
というかそれを目的に組まれた曲順だろう。


ちなみにツアー中盤から「パノラマジック」と「3人コーナー」の間に
「Get Wild」が差し込まれるが、この時の「Get Wild」では
サンプラーは使われていないようだ。





-----------------------------





師匠の存在感


さて、このエントリーすら主役の座を「Your Song」に奪われつつある
幸薄い「Fool On The Planet」


先に述べたように「Your Song」初演奏は
周辺の曲の協力と犠牲(?)の下に成り立っている。


演出的な面、または機材トラブルに見舞われた事態を想定したトラブル防止という面からも
1つのコンサート(特にツアー)の中でこのような、ある意味
偏った箇所 をいくつも作るわけにはいかない。





もはや自分の席はないのか?
うろたえて辺りを見渡す「Fool On The Planet」


あった!あと1カ所だけ後の事を一切考えないでよい場所がある。


       最終曲だ!!


ラストの曲ならば後の事を気にせず、
全てのサンプラーの全てのメモリを使いきることが出来る!!








            が、しかし…







この時期のTMのコンサート・ラストナンバーといえば、
そう、古参の「ELECTRIC PROPHET」師匠
物凄い形相でこちらを睨みつけているのだ。







   この時点で彼の夏は終わった。(高校球児風)






結局「Fool On The Planet」はコンサート終了後、
客出しのBGMとして使われることに…。

あんまりと言えば、あんまりである。





-----------------------------





栄冠は君に輝く(引き続き高校球児風)


しかし、ここでの敗北が同年6月、武道館公演での
TM NETWORK 史上、初のアンコール曲
という栄冠に繋がる訳だから、
人生(?)何が幸いとなるか分からない。


今見ても圧巻のスモーク演出























この時、ポコ太のいた1階席正面からは、まるで一枚の絵画のように見えていました。



































武道館公演はツアーに比べ
Emax、イーミューⅡが各1台ずつ増強され

・Emax 2台
・イーミューⅡ 2台
・S50 2台

の計6台となったのも追い風になったのだろう。
           赤字部分 13.08.24 追記




おそらくこの時は、打ち込み & サンプラー使用最終曲の「Self Control」が終わり
「ELECTRIC PROPHET」のイントロに移った瞬間、マニピュレーターブースでは
『大サンプルロード大会』が始まっていたはずだ。



「Fool On The Planet」の演奏がはじまり、
次々と再生されていくサンプルたちを見ていたスタッフにとっては、
花火大会最後の大打ち上げをみる花火職人のような気持ちだったろう。
























ちなみにこのときの演奏では、
Drumより先行してBassが入る & 途中でDrumが一時的に抜ける箇所がある為、
Bassの日詰昭一郎もヘッドフォンをして
コンピューターからのクリック音をモニターしている。






-----------------------------





いかがだったでしょう。
今回は『世界名作劇場』というか『小公女』のようなオチがついたエントリーでした。
やっぱり人間生きてれば、いいこともあるもんですね。



ちなみにこの時の「Fool On The Planet」武道館 ver. と
翌年の「KISS JAPAN DANCING DYNA-MIX」ver. では
サンプラーの使い方ひとつとっても
全然違うアプローチがなされていて興味深いのですが、この件についてはまたいずれ。





んじゃ、また。







8 件のコメント:

  1. FANKS CRY-MAXのDVDを通して観た時、「生演奏が意外に
    多いな」と漠然と感じていたのですが、サンプラーの
    ハードの限界が存在したという仮説がもし正しいなら、
    今まで疑問に感じていたことが一気に解決します。

    そうだったのか!
    いや~スッキリしました、ありがとうございます!

    返信削除
    返信
    1. koh さん、返事が遅れて失礼しました。

      その昔、ある少年(仮に「石○T球少年」とします)がYMOのLiveを聴いて
      『これが未来の音か!』とワクワクしていたら、
      大きくなってからソレが "機械っぽく弾いた人間の生演奏" と気付き
      『だまされた』と思ったそうです。

      我々も『だまされた』のかもしれません(笑)

      実際に"打ち込みシークエンスショー"がはじまるのは、
      翌年夏の東京ドーム公演から、冬のCAROL ツアー辺りですね。

      ただ春の Kiss Japan Dancing dyna-mix では既に
      「打ち込みシンセBass」も導入されており、
      着々と計画は進んでいたようです。

      削除
  2. 武道館前日に小室さんが、一生懸命ア〜とかウ〜とか録音してたって、木根さんがラジオで話してた記憶があります。

    返信削除
    返信
    1. ウメさん ありがとうございます。

      武道館『前日』ですか?!
      さすがに前日くらいは、歯磨いてサッサと寝ろよ!と思うんですが…。
      まぁ、サングラス担当の方のお話ですから
      多少、面白く盛っているのかもしれませんね。

      ただ、そのエピソードに限らず、
      TMにとってコーラスって重要な要素だなとホント思います。
      確か「We Love The Earth」のイントロも、もっと音を重ねるつもりが
      コーラスを入れたら、それだけで成立しちゃったらしいですね。

      削除
  3. 青い惑星の愚か者2013年8月20日 4:24

    私もなんでよりによってFOOLだけ演奏しないんだよ!と思っていたんですが、本当は演奏する予定だったんですね
    削られた理由も、武道館でアンコールとしてリベンジを果たした理由も、そっかーと納得です
    でもそれならテープでやっちゃっても…と思ったりするんですが、そこらへんが彼らの矜持なんでしょうね

    Bang The Gong Tourだと、インストコーナーでもいろんな声を流していて、あれもサンプラーのメモリーを消費しそうに思うんですが、その後もCome on Let's Dance、Dragon~、All-Right~、You Can Dance、Self Controlと、シーケンサーやサンプラーの消費曲が続きますから、裏方的にはここらへんが一個の佳境だったっぽいですね
    これくらいなら4つのサンプラーを2つずつ使うので乗り切れたのかな?

    返信削除
    返信
    1. これはこれは『Fool On The Planet』御本人から、
      コメントありがとうございます(笑)

      やはりテープだと、ヒスノイズの問題、
      ノビたり微妙な回転数のムラでピッチが狂ったりと、
      これまた悩ましい問題があったと思います。

      なので、ピッチやテンポをカッチリ合わせる必要の無いもの。
      例えば小室ソロコーナーの『子供達の騒ぎ声』なんかはテープかと。

      もう少し後、TMNの頃のTV出演時カラオケはDATを使っていたんじゃなかったな?


      ところで先日のコンサートでのオフ会、参加出来ず残念でした。
      『次回』なんて言っていると来年になってしまうので、
      忘年会でもあれば是非お邪魔させて下さい m(_ _)m
      ちなみにポコ太はTMと同じく多摩生息です。

      削除
  4. ネギ背負って行ってきました映画最終日
    ブツ切り編集に心を置いてかれた初日と違い
    情況を把握して行った今回は楽しめました

    Foolで重箱を思い出してより感慨深く
    帰ったら読み返そうと考えたくらい余裕もあり
    イロイロ心の中でツッコんだり
    思い出したりしてたら
    前回よりずいぶんと早く時間が過ぎました

    これも30thのお祭りの一部、貴重な体験でした
    他にもちょこちょこ読み返させていただきます

    返信削除
  5. お久しぶりです、zenrinです。

    重箱の隅的な感じで気になっていることがあるんです。
    「マニピュレーターブースへ指示を出す小室哲哉」の画像は、
    たぶん「Don't let me cry」のイントロ部分だと思うんですが、
    その直後、ステージ奥側へ移動しながら右手を上げる仕草がとてもカッコよくて印象に残ってます。
    でも、あのタイミングで右手を上げても、
    小室さんが顔を向けている下手側にいる人には、DX7が邪魔になって見えてないのではないかと。

    あと、彼はあのとき誰に何を伝えたかったのか。
    両手で弾く仕草をしてから右手を上げていることから、
    モニターマンに手弾きの音を上げろと伝えたいのかなと思われますが、
    それだったらたぶん、その目の前にあるどでかいミキサーでできそうな気がして。

    それか、何か別のことを白田さんに伝えたかったのか、
    あるいは、こんな感じがかっこいいんじゃね?っていうパフォーマンスだったのか。

    返信削除