2013年6月9日日曜日

自由をその手に 〜『KX5』小室哲哉カスタム 〜 その1

さて今回はお約束どおり
YAMAHAによるショルダーキーボード
『KX5』小室哲哉カスタムのお話。



といっても「Digitalian Tour」でお披露目された
『Mind Control』の話ではない。

それ以前に計画されていた、
もう一つの『KX5』カスタムの話である。





YAMAHAショルダーキーボード『KX5』














実は今回のテーマ、
はっきり言って他人のふんどしである。


相互リンクさせていただいている
こちらのブログ記事のコメント欄にて
「ふかっち」さんという方が
『本当ならTMの武道館でお披露目されるはずだった〜』
『当時の雑誌でそのように言っていた』
と指摘されていて、その後管理人の方と
『なぜ遅れたのでしょうね』などと会話が続いている。


これはなかなか面白そうな話題なので
乗っからせていただいた。







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結論から先に言うと『遅れた』のではなく
一度『立ち消え』になったと思われる。


なぜ、そう言えるかというと
幻の『87年・武道館バージョン』と
後の『Tetsuya's Mind Control』では目指すものが違ったからだ。



・『87年・武道館バージョン』
  → 音源を内蔵すること。

・『Tetsuya's Mind Control』
  → ボリュームコントロール、
    ピッチベンドホイールなど操作系のカスタマイズ。




今回はまず、幻となった
『87年・武道館バージョン』を見ていこう。







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該当の小室哲哉インタビューは
キーボードマガジン87年4月号に掲載されている。
内容の大半は当時リハーサル中だった
『FANKS! BANG THE GONG TOUR』についてのものだが
この時点で既に決定していた
武道館公演についても、少しふれている。


そこでの発言が冒頭でふれた
『特注のショルダー・キーボードを武道館でお披露目できるかも』
というものである。



実際の紙面ではもう少し具体的な内容を語っているので
箇条書きしてみよう。



・『TX81Z』の音源を2台分『KX5』に内蔵する。

・『TX81Z』の音源ならオペレータの波形を変える &
    2台分を混ぜることによって、今までのDXとは違う音が出せるかも。

・   ただし、現時点ではまだ『DX100』の音源になる可能性もある

・   重さは今の『KX5』くらいに。





YAMAHA『TX81Z』
ちなみにこの画像は次々回で使いまわす予定。










ちなみにこの記事の
『FANKS! BANG THE GONG TOUR』機材リストには
『KX5(特注)』という先走った表記がされている。




しかしご存知のように、この話は結局実現しなかった。




やはり音源を内蔵するには
内部のスペースが足りなかったか、
重量が重くなりすぎたためだと思われる。







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さて、実現しなかったとはいえ
なぜこの時点で「音源内蔵」にこだわっていたのだろうか?




それはズバリ、
ワイヤレスにしたかったからだ。




何故、ワイヤレスにしたかったのかは
説明する必要はないだろう。
誰だってダラダラと長いコードを引きずるより
ワイヤレスで舞台を自由に飛び回れる方が良いに決まっている。



ギタリストの中には音が痩せてしまうという理由で、
ワイヤレスを嫌う人もいるようだが
『KX5』にその心配はない。



なぜならオリジナルの『KX5』は単なるリモコンであり
それ自体に音源は内蔵されていないため音は出ない。
『KX5』から出力されるのは例えば
『今、ラの鍵盤を強く弾いた』
というMIDI情報だけである。
音が出るわけではないので、音痩せの心配はないのだ。



そのかわり、出力されたMIDI情報の『受け手側』
実際の音を出すシンセサイザー等と
何らかの方法で繋がなくてはならない




ここで問題がある。




1987年当時、
MIDI信号のワイヤレスシステムというのは
存在していなかったのだ。




よって『KX5』をワイヤレスとして使おうとした場合、
音源を内蔵し、それ自身から音が出るようにした上で
ギター用のワイヤレスシステムに繋いで使おう、
という発想になったのだろう。







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結局、実現しなかった『87年・武道館バージョン』であるが
「ワイヤレスで自由に飛び回りたい」
という願いを武道館で叶えたのは
皮肉にも小室哲哉ではなく木根尚登であった



DVD『FANKS the LIVE 1 FANKS CRY-MAX』の最後に収録されている
「Dragon The Festival」におけるダイジェスト映像では
ワイヤレス化した『DX100』を持った木根尚登の姿が見れる。




YAMAHADX100















同DVDの「イパネマ’87」イントロで
木根尚登が弾いているのが『DX100』である。
『DX100』にはストラップが付けられるようになっていて、
おまけに『DX7』などには劣るものの音源内蔵である。



ワイヤレスにもってこいなのだ。




       背後より監視を受ける木根尚登 …… 彼は疲れていた。





























     鎖から解き放たれた木根尚登! いま彼を縛るものは何もない。































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さて次回は『Mind Control』の話に行く前に
なぜそんなにワイヤレスに憧れたのか?
当時のMIDIワイヤレス事情と
コードを引きずってた時代の『小室哲哉哀歌』を語ろう。




んじゃ、また。







13 件のコメント:

  1. Fanks CRY-MAXで木根さんが弾いていたのは
    DX-100だったんですね!

    イパネマ'87のライブアレンジ、オリジナルと
    比べてアレンジがガラッと変わっていてすごく
    好きです(^^)

    イントロがすごく長くて、小室さんがまだやるの?
    って感じでチラ見している映像も面白い(笑)

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    1. koh さん
      日曜の朝から早すぎです!

      武道館のイパネマは、どちらかといえばデモテープに近いらしいですよ。
      メンバーの中で1番発言に信頼がおけると思われる(笑)
      宇都宮隆氏がおっしゃってました。

      「どちらかといえば」という部分に、
      宇都宮氏の良識を感じるポコ太でした。

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  2. こんにちは。
    「TMN通史」さん経由でこちらのサイトを知り、よく拝見させていただいてます。FANKS歴20ン年の私ですがテクニカル面については殆ど知識がないのでとても勉強になります。

    今回のエントリーもすごく興味深いものでした。
    ところで武道館での木根さんのDX100演奏ですが、これができるのならてっちゃんがDX100を持って動き回る、という選択肢はなかったのでしょうか?単なる素朴な疑問ですけどwww。

    それでは今後の記事も楽しみにしています!

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  3. Cheb さん
    どうもありがとうございます。
    ご質問の件、微妙に次回エントリーとカブるのですが、
    いいや書いちゃえ。我慢できないし(笑)


    まずですね
    これを見て御察しください…。

    『DX7』  発売当時価格 248,000円
    『DX100』発売当時価格  69,800円

    『DX100』というのはFM音源に憧れる初心者への
    "入門機" という位置付けの製品なのです。
    その為、音作りとしては一通りの事が出来るものの、
    大音量のバンドの生演奏の中 "ギターの向こうをはってシンセソロ"
    の様な場面では、些か力不足な訳です。

    本文で引用した小室哲哉インタビューでも『KX5』に内蔵するのが
    『TX81Z』の予定だけど『DX100』になっちゃうかも、
    と残念なニュアンスで語っています。


    その他にも演奏しにくい『ミニ鍵盤』であること。
    (『KX5』もミニ鍵盤ですが他の機種と違い、横幅は標準鍵盤と同じという
      演奏を考えKX専用に開発されたミニ鍵盤なのです)



    また今回のエントリーを読んでていただくと分かるように
    ワイヤレスにした場合『DX100』の内部で出来ることしか出来ません。
    『DX100』はサンプラーでは無いので、例えば例の【ゲゲゲゲゲ】をしようとした場合、
    結局外部のサンプラーとケーブルで繋がなくてはなりません。



    さらにもうひとつ、重要なことがあります。
    『カッコわるい!』

    そもそも『KX5』ですら当時から"駅弁売り"と揶揄され
    正統派のキーボーディストにとっては
    キワモノというか、微妙な立ち位置だったのです。
    ネック(握り手)の無い『DX100』に至っては
    完全に"駅弁売り"にしか見えません。




    ここまで書くと、むしろ
    何故、木根ちゃんは『DX100』を使ったか?という話になります。

    はっきり言って『賑やかし』です!
    つまり演奏に参加する為にワイヤレスにしたのでは無く、
    他のメンバーと一斉に飛び出してくるという
    演出上の要請だと思います(笑)

    ちなみに音色的にも「イパネマ」ではバンドの演奏が無い、
    静かな部分でしか弾いてませんよね。



    以上、少しは伝わりましたでしょうか。
    よくわからなければ、また質問してくださいね。

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    1. ポコ太さん、お返事ありがとうございます。
      返信がものすごーく遅れてしまい申し訳ありません。

      木根ちゃんのDX100使用についての説明、ありがとうございます。
      そういう裏?事情があったとは。
      確かに、機能&外見ともにここまでマイナス要素があったら
      てっちゃんが「ヤダ」とダダをこねる姿は容易に想像つきます(笑)。
      そして、あまりワガママを言わず聞き分けの良い木根ちゃんに
      お鉢が回ってきた、ということでしょうか。

      それにしても、あのDX100を肩にかけた姿が何となくイケてない、
      と感じたのは自分だけじゃないとわかって安心しました(笑)。
      今度じっくりFANKS CRY-MAXを鑑賞して、どのくらいカッコ悪いか
      チェックしてみます←ひどいww

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  4. 青い惑星の愚か者2013年6月14日 2:27

    長年のKX5プロトタイプ版の謎、やっと分かりました
    解き明かしてくれてありがとうございます
    小室さんの注文は、当時としてはハイスペック過ぎたのかもしれませんね
    重い機材を持って歩く体力はなさそうですしねえ

    木根さんのDX100携帯映像、そういや見覚えがあります
    たしかに「カッコわるい」ですねえ
    写真一目見て、思わずぷって笑っちゃいました(笑

    次回以後の更新も楽しみにしています!

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    1. 「書きます」って宣言してから、
      えらく時間かかっちゃってすいません。

      >> 重い機材を持って歩く体力
      これ、KX5編の隠れたテーマかもしれません。
      次々回あたりでクローズアップすると思います。


      そもそも『KX5』を「かっこいい」と思えるのって、
      国内だと8割くらい小室ファンじゃないでしょうか?(笑)
      実は『EOS』よりイメージアップに貢献したんじゃないかと密かに思っていました。

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  5. はじめまして<(_ _)>。私も「TMN通史」さん経由でこちらのサイトを知り、拝読しております。
    私は高校生の頃(80年代後半)、TMのコピーバンドをやっており、KX-5(小室さんと同じシルバー)とTX81Zは持っていたので、今回の記事を興味深く読ませていただきました。
    「TX81Z×二つをKX-5の内臓音源にする計画」は驚きです。私はライブではKX-5とTX81Zをつないで使っていましたが、TX81Zって、DX100よりはマシだけど、やっぱりDX-7などに比べると音がペラペラだなあ(ライン録音した時より、特にライブで)・・と感じていました。私ですらそう感じていたので、小室さんが満足する音が出るとは思えないからです。ただ、二つ使うことで、それなりの音になるのかもしれないのと、見た目(ワイヤレス)重視ということだったのでしょうか…
    FanksCRY-MAX Tourも見に行ったはずですが、木根さんがDX-100を使っていたとは気付かず、えらくチープなものを使っていたのだなあと驚きました。
    今は浦島太郎状態で、DTMのには全然疎いのですが、さっきググってみたら、KX-5をワイヤレスにするシステム(一般人が買えるもの)が発売されている様ですね。

    今後も更新楽しみにしております!

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    1. NutRocker さん,
      こちらこそはじめまして<(_ _)>。


      >>(ライン録音した時より、特にライブで)
      ライブって残酷ですよね。特に電子楽器って価格の違いが音の違いに露骨に出ることがあって。
      「結局、金かよ!」みたいな(笑)。

      『KX5』って『KX1』などに比べると大幅に軽量化されましたけど、
      それでもずっとライブで使っていると肩に食い込んできませんでしたか?
      基本ショルダーキーボードって欧米人の体格に合わせてるんじゃないかと。


      >> 音がペラペラだなあ
      でも『TX81Z』ってオペレーターの波形を変えられるってことで、
      あの時期『FM音源の新たな可能性』みたいなイメージはありましたよね。
      マルチ音源というのも未来の音源だと思いました。

      このインタビューが87年2月頃ということは
      計画自体は86年末には持ち上がっていたと思われるので
      新しい物好きとしての小室哲哉は
      『その新たな可能性』というイメージに飛びついたのかもしれません。

      結局『DX7』の代わりにはなりませんでしたけど
      その後もベース音源としていまだに人気ありますし、
      「発売後しばらく経ってから本来の居場所を見つける」という意味で
      『TR-808』等と並ぶ名器なのは間違いないですよね。


      また気が向いたら寄ってください。
      どうぞよろしくお願いします。

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  6. ポコ太様、返信ありがとうございます。
    そういえば、TX81Z以前の音源ってマルチじゃなかったんですよね。
    すっかり忘れていましたが、マルチってところに当時、未来を感じた記憶が私にもあります。
    ベース音源としていまだに人気あるということにも驚きました!

    >『KX5』って『KX1』などに比べると大幅に軽量化されましたけど、
    >それでもずっとライブで使っていると肩に食い込んできませんでしたか?

    これに関しては、私(=女性、中肉中背)はそうでもなかったです。
    シンセ類も移動で持ち歩くことが多く、それは半端じゃない重さでしたが、
    KX-5はやっぱり中がスカスカって感じで、随分軽く感じました。
     
    ところで、私は最近の小室さんの演奏スキルとセンスの劣化がかなりひどいと思っているのですが、ポコ太さんはどのように感じていらっしゃいますか?
    小室さんは、昔から演奏はうまくなかったですが、下手なりに華のあるプレイだった気がするのに(私にとって最高の演奏はパルコライブのソロです)、この前の武道館の時にしても、正直、どの曲も長すぎるアウトロばっかりで、聴いていられないレベルだと感じました。(同行した友人も同意見でした)
    アレンジに関しても、昔あれほど緻密にやっていたとは思えない雑さや、どうしようもない古臭さを感じることがあります。
    でも、"I am"は好きですし、今後もずっと見つめ続けていくとは思うのですが…
    私が見た範囲では、TMファンの方のブログなどでは、そうした音楽面での劣化にあまり触れていないことが多いのですが、老化だからしょうがないと皆さん思っているのでしょうか…このブログの趣旨に合わない質問かもしれませんが、ご意見伺えれば嬉しいです。

    最新記事も拝見しましたが、「ぼくにも弾けた」、
    大笑いしました~

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    1. NutRocker さん
      たびたびありがとうございます。

      『劣化』の件ですが、今回はアレンジ等スタジオワークは横に置いて「ライブ演奏」について僕の見方を書いてみますね。



      率直に言って僕も同じように感じたことがあります。

      初めてそれを感じたのが
      2004年の「DOUBLE-DECADE」の時でした。
      ダラダラとしまりがなく、テンポも定まらない演奏で、
      たぶん昨年の武道館で NutRocker さんが感じたのと同じだと思います。

      ただ、2007年の「REMASTER」渋谷公演の時、その見方を変える
      ちょっとショッキングな事があったんです。
      コンサート中にもかかわらず、mc 中、彼は薬を飲んでいたんですよ。
      一旦ソデにハケるとかではなく、キーボードブースで客の観てる前で…。
      自分も含め気付いた一部の客は、微妙にザワつきました。

      その頃『彼は精神安定剤を常用している』という
      噂(真偽は今もわかりません)を耳にしたことが有り、なんだか見てはいけないものを見せられた様でした。


      その時、思ったんです。
      これは『劣化』というよりも『集中出来ない』のじゃないか?と…。
      というのは思い出したように、急にキレのある演奏することがあるんですね。

      例えばその数日後「REMASTER」武道館の「Key solo (CAROL)」
      ピアノの部分はヘロヘロですけど、バンド演奏に移ってからは往年の華というかキレというか感じませんか?

      これは一体どういう事なんだろうと思っていたら、
      例の事件が発覚した訳です。



      昨年の武道館でも既に体調(C型肝炎から来る"だるさ")はおもわしくなかったようですし、
      こうなると僕としては『劣化』と言い切ることも出来なくなってしまいました。

      もちろん結果としてひどい演奏だったとは思いますが、
      所々、異様な気迫を感じる演奏でもありました。
      それに24日の「永遠のパスポート」エンディング部分は、今までのライブ版「永遠のパスポート」の中でも出色の出来ばえだと思うのです。

      まあ昨年に関して言えば、演奏内容よりも TM NETWORK のリーダー(プロデューサーではなく)が復活したように見えて嬉しかったです
      正直「REMASTER」の時は TM NETWORK そのものが見ていて痛々しかったのですが、昨年は久しぶりに TM が見れたような気がしました。
      もちろんこれで演奏にキレがあれば、鬼に金棒なんですけどね。



      最後に少し辛口なことを言うとアレンジ・ライブ演奏ともに彼に
      意見する人が周りにいないことが問題の1つだと思います。

      実は80年代、僕たちが見ていたのは小坂洋二氏、以下のスタッフワークが大きいと思うんですよね。

      ですので小室氏自身の感性は実はそんなに変わっていないのでは?とも思います(笑)



      ダラダラと書いた割には内容が薄くすいません。
      NutRocker さんもTMを愛するが故のご意見等だと思います。
      確かに、今後10年・20年と実態がなくなった後もファンの枠を越えてTMが受け継がれていく為には、適切な批評・論評ができる場所があるといいですよね。

      当ブログは相変わらずしようもない内容ですが、
      気が向いたらまた寄ってください。

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  7. 最後の写真めちゃくちゃ笑いましたw
    小室さんと木根さんの関係もなんか友達の延長線だから
    なんかいつもほんわかするんですよねw

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    1. 80年代当時は、よく『ユニット』(あくまで独立した個々人の連帯)
      であることを強調していましたが、
      今やこうなってみると、どこよりも強い『バンド』ですよね。

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